LEGAL & TAX NOTES / DUBAI / オフプラン
オフプランのキャンセルで人気物件を狙うという戦略も有効!逆に、キャンセルした人は払ったお金は没収になるのか!?

ドバイのオフプランは、発売初日に完売する人気プロジェクトでも、あとから区画が戻ってくることがあります。買主が分割金を払えなくなり、デベロッパーが契約を解約して再販する「キャンセル物件」です。この流れを知っていれば、完売済みの物件にも手が届きます。
逆に、やめる側はどうなるか。「払ったお金は全部没収」と思われがちですが、ドバイでは法律が、工事の完成度に応じてデベロッパーが留保できる上限を決めています。契約書にそれより不利な条項があっても、原則として法律が優先します。
この記事は、買う側の戦略(§A)と、やめる側のルール(§B)を一つにまとめたものです。
A. キャンセル物件を狙う — 完売済みの人気物件にもう一度チャンスが来る仕組み

A-1. なぜ区画が戻ってくるのか
オフプランは建設の進捗に合わせた分割払いです。発売時は頭金10〜20%で申し込めるため、初日に完売するプロジェクトほど「とりあえず押さえた」買主が含まれています。その後の分割金(例: 6か月ごと10%)で払えなくなる買主が一定数出ます。
デベロッパーは §B の手続き(DLD通知→30日の是正期間)を経て契約を解約し、区画を自社の在庫に戻します。戻った区画は再販されます。これがキャンセル物件です。
A-2. いくらで出るか
基本的には発売時の価格(元値)のまま出ます。発売から時間が経ち、市場価格が上がった後のキャンセルでは、デベロッパーが価格を市場に寄せてくる場合もあります。それでも、発売当時に完売で買えなかった物件に、転売プレミアムなしで入れる機会であることに変わりはありません。
支払条件は状況によります。本記事で扱うのは、デベロッパーがキャンセル物件をあらためて売るケースです。この場合、買主はデベロッパーに対して代金全額を支払う必要がありますが、分割支払いの有無はその際に提示される条件次第で、最初の売り出し時のペイメントプランを引き継げないことも多くあります。完成時までの分割については適用される場合が多いものの、「元のプランのまま」とは限らない点に注意してください。
なお、元の買主が自分で引き継ぎ先の新買主を見つけてくる場合は、デベロッパーのキャンセルではなく当事者間の転売(アサインメント)です。条件も手続きも別物なので、§Cで場合分けして整理します。
A-3. どうやって情報を取るか — 公開前に決まる
キャンセル物件は広告に出る前に、デベロッパーから私たち仲介会社に先にシェアされることがあります。特に人気物件では、公開される前にその段階で即完売になります。つまり、公開情報を待っていては間に合いません。
やることは一つで、狙っている物件を事前にエージェントに伝えておくことです。当社では、デベロッパーからキャンセル情報が入った時点で、その物件を希望として登録している方へ順に連絡しています。
A-4. 注意点
- キャンセル物件でも契約は新規のSPA。§Bの条項確認は同じように必要
- 「元の買主が払えなくなった理由」がプロジェクト側の遅延なら、自分も同じ遅延リスクを負う。DLDの完成度(Project Status)を確認してから決める
- 転売(アサインメント)とは別物(§C参照)
B. やめる側 — 払ったお金は没収か
B-1. 契約より法律が優先する
オフプランの解約条件と既払い金の扱いは、SPAの文言だけで決まりません。ドバイでは Law No.19 of 2017(オフプラン登記を定めた Law No.13 of 2008 第11条の改正)が、買主が支払いを怠った場合にデベロッパーが留保できる上限を、工事の完成度に応じて定めています。
B-2. 完成度別の留保上限
維持/競売/解約を選択
解約
解約
払込額に対する上限
| 工事の完成度 | デベロッパーが留保できる上限 | 契約の扱い |
|---|---|---|
| 80%超 | 売買代金の最大40% | ①契約維持・残代金請求 ②競売で回収 ③解約 のいずれか |
| 60〜80% | 売買代金の最大40% | 解約 |
| 60%未満(着工済み) | 売買代金の最大25% | 解約 |
| 未着工(デベロッパーの責によらない) | 払込額の最大30% | 解約。超過分は解約から60日以内に返金(他の段階と期限が違う) |
「売買代金の」と「払込額の」で基準が違う点に注意してください。例えば売買代金1,000万AEDの物件で、完成度50%の時点で300万AED払って止めた場合、留保上限は売買代金の25%=250万AEDで、差額50万AEDは返金対象です。払った額より留保上限が大きければ返金はありません。
B-3. 手続き — 裁判なしで解約される
- 支払い遅延多くのSPAは月1〜2%程度の遅延損害金と15〜30日の猶予を定めている。この段階でデベロッパーに連絡すれば、分割の繰り延べや再編で収まることが多い
- デベロッパーがDLDに買主の不履行を届け出 → DLDが買主に通知 → 30日の是正期間この期間内に支払うか和解すれば契約は維持される
- 未是正なら解約・Oqood抹消DLDが「デベロッパーの手続き遵守と完成度」を確認する文書を発行し、それに基づいてデベロッパーは裁判・仲裁を経ずに契約解約とOqood(暫定登記)の抹消ができる
- 留保上限を超える分の返金解約から1年以内または再販から60日以内のいずれか早い方(未着工の場合は解約から60日以内)
- RERAがプロジェクト自体を取り消した場合エスクローから全額返金
これらの規定は公序に関わるもので、SPAで排除できません。買主は裁判・仲裁に訴える権利を保持します。実際に、引き渡しが3年以上遅れたプロジェクトで買主が支払いを止めた事案では、ドバイの不動産裁判所がデベロッパーの留保を40%から10%に減額し、差額の返金を命じています(2026年報道)。法定上限は「ここまでは取れる」という天井で、デベロッパー側に落ち度があれば裁判で削られます。
留保上限を超える分は、解約から1年以内または再販から60日以内のいずれか早い方に返金(未着工の場合は解約から60日以内)。RERAがプロジェクト自体を取り消した場合は、エスクローから全額返金。
B-4. アブダビは別ルール

DUBAI / LAW 19 OF 2017
完成度別の留保上限(25〜40%)。DLD通知→30日是正→裁判なしで解約。超過分は1年以内に返金
ABU DHABI / LAW 2 OF 2025
Law 2 of 2025(2025年8月2日施行)+行政決定165号(2026年): 公証または書留の通知→60日の是正期間。通知から15日後にデベロッパーがDMT(市町村交通局)へエスクロー受託者の証明付きで届け出、ADRECが和解を試み、是正されなければ30日の冷却期間を経て裁判によらず解除。留保率は未着工なら全額返金、工事の進捗に応じて初期10%程度から完成度60%以上で最大40%まで段階的に上がり、買主が60%以上支払っている場合はADRECが個別に判断。超過分の返金は15営業日以内、エスクロー外で徴収された金額は30日以内に返金
B-5. 「没収」に見える条項の正体
SPAには次のような条項が入っていることがあり、読むと全額没収に見えます。
- 署名・返送期限を超過すると申込みが自動失効し既払い金を没収する条項
- 買主都合の解約時に既払い金を全額留保する条項
これらは §B-2 の法定上限を超える部分について、原則として効力がありません。ただし予約金(ブッキング)の段階、つまりSPA締結前・Oqood登録前に支払った申込金は Law 19/2017 の保護の外にあり、予約フォームの定めに従います。プロジェクト自体はまだ完売していなくても、希望した部屋を確保できなかった場合は通常返金されます。一方、予約金の段階では契約書を締結していないため扱いが微妙なケースもあり、返金ではなく次の物件の購入代金への充当を求められる場合があります。買主都合の辞退は没収とされることが多いので、やめるならSPA締結前に決めるのが、金額の面では最も軽く済みます。
C. 場合分け — デベロッパーの再販と、当事者間の転売(全額支払い前)
「キャンセル物件」と一口に言われますが、出どころは2つあり、買う側・やめる側のどちらにとっても条件が違います。
| ① デベロッパーのキャンセル再販 | ② 当事者間の転売(アサインメント) | |
|---|---|---|
| 何が起きているか | 元の買主が払えず、デベロッパーが解約(§B)して区画を在庫に戻し、再販 | 元の買主が自分で新買主を見つけ、SPA上の地位を譲渡 |
| 売主 | デベロッパー | 元の買主 |
| 価格 | 基本は元値。時期により市場価格に寄る | 当事者間の取り決め。通常は多少のディスカウント(元の買主が早く抜けたいため) |
| 新買主の支払い | デベロッパーに全額。分割の有無は提示条件次第 | 元の買主に既払い分+取り決めた差額を支払い、残りの分割金をデベロッパーへ引き継ぐ |
| ペイメントプラン | 元のプランを引き継げないことが多い(完成時までの分割は適用される場合が多い) | 元のSPAの分割スケジュールをそのまま引き継ぐのが原則 |
| デベロッパーの関与 | 売主本人 | 譲渡の承諾(NOC)が必要。既払い率が一定(40%とする契約も50%とする契約もあり、SPAによる)に達するまでNOCは出ない。条件はSPAの譲渡条項、手続き・書類は譲渡・NOC・必要書類 |
| 費用 | 新規購入と同じ(DLD 4%・Oqood登録) | NOC手数料 1,000〜5,000AED程度+デベロッパーによっては譲渡手数料(元値の2〜5%)+DLD 4%(Oqood名義変更)+登記受託事務所 4,000〜5,250AED+仲介手数料2%。合計で売買価格の6〜11%が目安 |
| 元の買主の手取り | §B-2 の留保上限を超える分のみ返金 | 既払い分から値引き相当を差し引いた額。留保はされない |
| 情報の出方 | 公開前に仲介会社へ先にシェア(§A-3) | 元の買主が仲介会社に依頼。転売サイトにも出る |
NOCの既払い率条件は契約書で決まります。40%の契約も50%の契約もあります。さらに複雑な型として、「50%を支払済みであることに加え、転売の際にさらに10%を支払うこと」をNOC発行の条件にしているデベロッパーがあります。この型では、たとえ70%まで支払済みでも、次の10%、つまり合計80%を支払わないとNOCが出ません。この追加分は理屈の上では売主が払うべきものですが、売主に余裕が無い場合、買主が先に立て替えてNOCを取得し、後で精算するケースもあります。立替は売主の不履行リスクを買主が負う形になるため、精算の条件を書面にした上で慎重に進める必要があります。
転売の契約はRERA標準のForm Fを使い、DLD登記受託事務所でOqoodの名義を書き換えて完了します(手続きと書類は譲渡・NOC・必要書類に整理しています)。Law 13/2008 第7条は、デベロッパーが譲渡承認の対価として取れるのをDLDが認めた事務費に限っており、高額な譲渡手数料を求められた場合の根拠になります。
やめる側にとっての結論は明快で、払えなくなりそうなら、デベロッパーに解約される前に②で自分から売るほうが手取りは大きくなります。①では法定上限まで留保されるのに対し、②は値引きの幅を自分で決められるからです。ただし②には既払い率の条件があり、条件未達の早い段階では①しか残らないケースがあります。是正期間の30日(§B-3)に入ってから動いても間に合わないことが多いので、分割金が厳しいと分かった時点で相談してください。
買う側にとっては、①は元値で入れる可能性がある代わりに情報が公開前に消える、②は値引きが期待できる代わりにNOCと既払い率の確認が要る、という違いです。どちらも DLD の完成度とSPAの条項確認は同じように必要です。
よくあるご質問
途中で支払えなくなったら、払ったお金は戻りますか?
キャンセル物件は元の値段で買えますか?
解約に裁判は必要ですか?
払えなくなりそうです。解約される前にできることは?
予約金(ブッキング)の段階でやめたら?
アブダビでも同じですか?
まとめ
キャンセルは、買う側には完売物件への再チャンス、やめる側には法律で守られた出口です。どちらの側でも、DLDの完成度・SPAの条項・Oqood登録の有無の3点を押さえれば、損をする場面は限られます。
当社はRERA・ADREC登録のブローカーとして、キャンセル物件の情報と、解約時の法的整理の両方に対応しています。無料相談へ。
条項の型はSPAで確認すべき条項、譲渡手続きは譲渡・NOC・必要書類、購入手順全体はドバイ不動産完全ガイド、引き渡し時の確認はハンドオーバー。
執筆: 森 和孝(UAE法弁護士・RERA/ADRECブローカー)